住みたい場所が「実家の農地」だった…理由や事情の前に知っておきたい”農地転用の許可申請”に必要なこと

前回「住みたい場所」というテーマでお話ししましたが、今回は農家さんの息子さんが”住みたい場所に選んだ場所”が自分の家の農地だった、というお話です。

ある日、長年お付き合いのあった市街化調整区域内にお住まいの農家の地主様からお呼びがかかり、「次男家族に屋敷の一部の土地を分けてあげたいがどうしたらよいか」と、相談をいただきました。

一言で屋敷と言っても、農地の中に宅地があるような広大な土地です。
しかも、ど真ん中に昔ながらの農家の住宅が建っているような土地なので、”どのように使用できるか?”というよりは、広大な土地のどの部分に住みたいか?・・・という感覚です。

自己所有の土地なのでいかようにもできそうなものですが、そもそも農地法の制限はとても厚い壁です。これを想像するだけで、遠い話になるかも・・・と正直思いました。

しかし、相談の中で”農家の家を引き継いでいく立場にある、若い家族の夢”に触れ、やはり何かできる事を協力したいという思いのほうが農地法の壁にたじろぐ気持ちよりも強くなり「よし、なんとかしよう」という仕事人的な気持ちになってしまった訳です。

農地転用へ向けた作業スタートです

早速動きだします。
「農家の分家住宅」を申請目的に、管轄担当農政課窓口から都市デザイン課窓口を通う事数週間。

各担当に相談するも、どこも「申請要件難しいよ!」との返答。
私の頭の中でぐるぐると問題が渦を巻きます。

お先真っ暗とはこの事を言うのか・・・。

お役所の方に世間の多彩な事情による相談に乗ってもらう姿勢になってもらうには一体どうしたらよいのだろうか・・・。

実家の土地をもらう事が、単に「土地購入から資金を考える事」より費用削減できるだろう的な”安易な理由ではない事”を分かってもらうには・・・。

何故ここに住みたいのか、ここに住む理由があるのか、何故、何故、何故・・・。

担当者と話を重ねていく内に、理由や事情があろうとも、どうしても先にクリアーしなければならない許可基準とは、全ての要件に該当するものである事を思い知った訳です。

農地を宅地に・・。事情の前に、まず必要な「許可基準」とは?

理由と事情を受け入れてもらうには・・といった作業の前に、次のような基準が立ちはだかります。

  • 所有地内の広大な宅地内に建築出来ない理由
  • 他に宅地を所有していないか
  • 線引き前から申請者が直系尊属が所有してきた土地である事
  • 申請希望面積は300㎡以下である事
  • 分家住宅の許可は、原則1回かぎり

以上の許可要件の説明に対し、こちらとしてはまず

  • 広大な土地の登記簿謄本(昭和以前から分かるもの)を取得し・・・
  • 過去の土地の使用履歴、公図、測量図等資料 を集め・・・
  • 敷地内全体の現況写真(基準要件を説明できる写真)を大量に撮影して・・・
  • 使用希望の土地に関しての水道・排水関系もあわせ調査 を行いました

上記の許可基準の要件を満たす作業の中では、敷地内の未開拓地と度々向き合うことになり、現地~役所を行ったり来たり・・が続きました。

ある日、そのお宅のおばあちゃんから「大変だの~」とお声をかけられ、今回のことを話していると、
「おばあちゃん。土地を分けてもらうよ!」と孫から先日いわれたとのこと。
そのお孫さんの言葉をとても嬉しそうに話していただきました。

おばあちゃんにとっては、曾孫が屋敷に住むという事。その”うれしさ”や”幸せなこと”であることを想像するとさらに頑張らなければという思いになりました。

どんな難しい許可申請作業であっても事務仕事です。
役所の方の担当サイドの判断材料としての必要な一つでしかない作業です。


でもその先は、やはり何故ここに住みたいのか、ここに住む理由があるのか、という理由が必要となります。重要な用件と言う訳です。

“息子さん家族の事情” と “この土地に建築し住居を求めたい理由”

次の後継者の一人として、今は会社勤めであっても幼少期から耕運機に馴染み積極的に農業に携わっていた次男さんが、農地・農業への愛情を持っていた事、その農地を守ってきた親と次世代の孫たちとの関係を、自己所有の敷地を通して繋いでいくことの大切さを伝える文書を、にまとめ提出。

そして、行政書士さんの力も借りて、最終的には許可をもらいました。

農家敷地内に“独立住居を作って生活を営む事”は「次世代の農業応援に繋がる」ことを実感

一通りこの「農家の分家住宅」という作業に携わらせていただき、なんとかしようとこだわりぬいた結果、思うことです。

核家族が増え、親や一族との関係が疎遠な家庭環境も少なくない昨今、
これから育っていく子供たちの世代が、屋敷内に住まう事で得られる家族の繋がりは、なにより祖父母にとってはもちろんですが、子供たちにとっても、家族や一族のルーツである地に根ざした環境で住まうことは心の安定につながり、将来的に祖父母も孫世代にもやってくる老後への安心にも繋がるのではないかということ。

私の幼少期にはそういう環境は特段不思議な事でもなく、農家の次世代が敷地内に独立住居を作る事というその流れはごく普通な流れだったように思いますが、なぜか現在社会はメリットとデメリットという考えが先行しすぎて、従来の人の営みの中にあった安定感に亀裂を生じさせる状況を生んでいるのかもしれない、と感じるところもあります。

「農業人口が減退している」という問題に対しても、農地を守っていかなければならない、農業後継者を育てていかなければという中で、農地法などのルールは「果たしてなにを守ろうとしているのか?」「なにをどうしたいためのルールなのか」と疑念さえ感じずにはいられないところです。

農業次世代が敷地内に独立住居を作って生活を営む事を応援することは「そんな状況に対してできる一つの考え方」であり、小さいかもしれないけど「農業を守っていく道」になるかもしれない・・・

そんなことを考えるお仕事でした。
不動産の仕事に関わることは「その人生に関わること」と改めて実感します。


「農家の分家住宅」
・・・原則市街化調整区域内においては建築が出来ないエリアのところ、農家の方が特別な許可を受けて建てた建築物。

一般的に農家さんの二三男等いわゆる跡取りの方が、土地を分けてもらい許可を受け建築。

注:将来原則第三者に売却、賃貸、再建築等 不可